闇打つ心臓
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伝説的な自主映画としての『闇打つ心臓』。23年経てつくられた『闇打つ心臓Heart,beating in the dark』。闇打つ心臓とは何なのか?関係者や監督たちに聞いて回る、リレーインタビュー。
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長崎俊一監督インタビュー
23年前に撮影された映画をもう一度同じ監督、役者で撮る。「どうしてまた同じ題材で映画を作ったのか」。製作する上での意味、思い、葛藤を長崎俊一監督に聞いた。


f0087322_21251416.jpg—今回の『闇打つ心臓』を製作する発端は?

プロデューサーの佐々木史朗さんが、オリジナルの『闇打つ心臓』(1982年/8㎜)をなぜか気に入ってくれていて、リメイクを考えられないかと何回か言われていたんです。
でも、しばらくは考えられなかったんですね。
その理由として、自分の中で一回作ってしまった作品である、ということですよね。
そのことはやっぱり大きくて、もう一回作っていくことが自分にとってどのような意味があるのか、ということが掴めなかったんです。

—古今東西映画に“リメイク”ということは沢山あるわけですが、長崎監督なりにイメージがあったのですか?

いや、そういうことではなくて。ただ、この『闇打つ心臓』に関しては自分が作った作品をもう一度自分の手で作り直すってことになるわけじゃないですか。
オリジナルはストーリーとしてのおもしろさよりも、自分の気持ち…作っていた時に思っていた事、感じてた事がけっこう大事な映画だったと思うんですよ。大事だったというか、自然とそうなっちゃったんですけどね。だから、それを改めて20何年後かにもう一度作るっていった時に、意味っていうか動機みたいなことが自分の中で必要だったんですよね。
それが、時間が経ってだいぶオリジナルっていうものが遠いものになったし、割と突き放して考えられるようになったのと、当初は本当に曖昧なイメージだったんですけど、今の若い人でやり直すってことが自分にとって新しいことのように思えてきたので。

—違いは何でした?

すごく大げさになっちゃうんだけど、内藤と室井でやってた時は若かったし、自分たちの存在証明的な、ネガティブな話ではあるんだけど、どっかそういう気分が作っている僕にもあったし、たぶん内藤や室井にも濃厚にあったと思うんですよね。
で、どうも今はそういうことじゃないよなっていう…。自分の中でもそんなに濃厚に自分の存在証明なんてする必要もないし、あるいはできないし、生きている意味なんていうのは非常に、一転ね、希薄なものになっちゃったよなぁっていう…。そこら辺の違いかな。

—できあがった映画のかたち(ある種3つのパーツが絡まるかたち)にはどう落ち着いたのですか?

まず、若い子達だけの脚本を作ったんです。その中で、何かすごく…言葉にしづらい“何か”が足りないって思ったんですね。もしかすると、若い人たちでやろうって思い付いたけれども、やっぱりリメイクと自分の距離感、リメイクするってことに対する自分のとまどいとか、素直に「ハイやろう」ってならなかったことっていうのが、澱のように残ってたんじゃないかって思う。
そこで、ドキュメンタリー部分を作ったんですよ。そこでは、リメイクをしている若い俳優がいて、ところどころで俳優内藤と女優室井が出てきて、リメイクに関わるという形にしたんですね。
それで、内藤と室井にこういう映画を作るんだけど出てくれないか、って話してみると、彼らは彼らなりにオリジナルに対する思いがあるんですよね。当時は彼らも今ほど忙しくないし有名でもなかったけど、逆に言うとそれだけにある種の思いがあって…。その作品をリメイクするってことになると、リメイクに対する思いも当然あるわけですよね。そうすると、それもやらないとマズイんじゃないかって。で、23年後のリンゴォと伊奈子を脚本に書き加えた。
なおかつ、そうなるとオリジナルの映像もあった方がいいんじゃないかとなり、今のあの形になっていった。

—結果、「リメイクはできない」っていう映画になった気がするんですよね。

うん。あの…そうですね、そうだと思いますね。
たぶん、その内藤と室井がドキュメンタリー部分だけでなくて、やっぱりオリジナルの役の23年後として出てくることになった時に大きく変わっていって、例えばオリジナルと現在の内藤と室井がカットバックになった時にそれだけで、語りかけてくるものがあったりするんですよね。
それは、一種の見せ物でもあるし、やっぱり時間っていうものを考えざるを得ないし。
そのことから、映画のリメイクではなくて、人生のリメイクはもうできないじゃないかっていうような気分に大きく傾いていったんじゃないでしょうか。
同時に、結局はこの映画の出発点である“リメイクするということにどんな意味があるんだろう”っていう所に戻っていった、てことかなぁ。

—ある程度変わっていくことや、付け足されていくことをよしとする作り方を、どこかで選んでしまっているんですかね。

作品によって違うんですけど、僕の映画はそうなりがちではあると思いますね。
この『闇打つ心臓』はその中でも特別です。佐々木さんに言われて「リメイクする」ってことに戸惑ったことがどうしても出発点にあるんですよ。作ってる時もどっかにあったんじゃないかなと思うんです。だから余計に手探り状態っていうか、わからない状態で。決してその現場でね、例えばシナリオが大きく変わっていったりってことはないんですよ。ただ映画が動いていって、結果としての映画がどうも当初考えていたものと違うものになったっていう、その度合いが非常に大きいんですよね。そんなこと映画でやるべきことなのかどうか分からないけど、ふとした拍子に自分が死ぬことだったり、時間のことを考えちゃったり。手探り感っていうか。それはすごく大きかったですね。何やってるかわからないっていうか。
だからもう、立ちすくむしかないような感じって言ったらいいんですかね。誤解を招くような言葉だけど、そんな感じはちょっとありましたね。

f0087322_21261835.jpg—さて、82年製作のオリジナル『闇打つ心臓』のお話です。
『九月の冗談クラブバンド』が1千万映画でスタートして途中で事故を起こして、映画がねじれるような形になり完成する。その後『闇打つ心臓』を撮るということは大きな意味はあったのですか?



たぶんありましたね。まぁ1つは事故があったりするということは、映画としてはうまくいかなかったわけですよね。そのことを考えたんだと思うんです。それまでは、本当に無邪気に映画を作っていた。“こうするとかっこいいなぁ”とか。でも『九月の冗談クラブバンド』を経た時にやっぱり自分たちの手で作る映画作りの方法とか内容とか考えたんですよね。入院もしてたし、その間に色々考えた。それが『闇打つ心臓』だったと思うんですよ。セットに飾りもなく役者さんもメインは2人だけで、と考えられる最小限の形で撮りたいと思ったし、中身もそれまで自分が作っていた映画とはだいぶ違っていた気がします。
ただ、この間久しぶりに『九月の冗談クラブバンド』を見たら、どうやって大人になるかとか社会に出て行くかっていう映画に見えた。当時若ければ誰でも思うそのことを巡る“ためらい”についての映画に見えて、自分にとってそれはけっこう新鮮だった。なんだ、当時の自分のことを映画にしてたのかって。そんな映画作ったつもりなかったんだけど。
それでその後、『闇打つ心臓』を作った時に僕は世の中に出たんだと思うんですよね。いや、世の中のシステムを意識したっていうか…。

—先程「分からなくなった」とおっしゃっていたんですが、長崎さん、案外自由になったんじゃないんですか?

ずいぶんいい言い方ですね(笑)。いいかげんなだけかもしれない、いや、映画はちゃんと作りますけどね(笑)。ただ、映画だぞっていう強がりを今回の『闇打つ心臓』をやっている時はあまり感じなかったんですよね。不思議な感じでした。
さっきから話しているドキュメント部分も、内藤がチャーミングに見えたい、それはリンゴォということでも、室井でも、伊奈子でも、若い二人でもいいんだけれども、それが目的だったという気が今はします。
8mm版『闇打つ心臓』の若い二人が23年後新たな『闇打つ心臓』で部屋から外に出て、かつての自分かもしれない若いカップルに出会う。それはそれでひとつの物語にはなったんだけれども、それだけじゃ納まりがつかなくて。これは内藤演じるおじさんが魅力的に見えなければいけないな、と。僕にはオリジナルで内藤がリンゴォという役を演じると同時にあの時の内藤本人でもあった、という意識がある。今回もそういう要素が欲しくて、それがあって初めて役がチャーミングになるのかなと思ったんです。それはドキュメンタリーだろうがドキュメンタリーじゃなかろうがいいんですよ。どこかはみ出ているところがほしい、それが『闇打つ心臓』という映画に必要なんじゃないか。ドキュメンタリーだからって事実だけが描かれているとは限らない。「そんなばかな」ということでいいんです。内藤のイメージ全部を使って、それは室井も同じなんだけれど、罪に悩んでいるけれどもチャーミングに見えてくる、というね。そういうことを考えていたのかもしれないですね。

監督の言葉ひとつひとつから映画に対する“真摯”さが伝わり、『闇打つ心臓』(8mm版)がいかに監督にとってのターニングポイントであったかが分かった。

次は、自主映画時代から長崎監督作品に多数主演し、いわば長崎監督の分身ともいえる内藤剛志氏にインタビュー!

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by yamiutsu | 2006-03-10 21:32 | インタビュー