伝説的な自主映画としての『闇打つ心臓』。23年経てつくられた『闇打つ心臓Heart,beating in the dark』。闇打つ心臓とは何なのか?関係者や監督たちに聞いて回る、リレーインタビュー。
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2006年 03月 14日
昔の『闇打つ心臓』のフィルムに映った伊奈子役 室井滋は、愛らしさと生意気さが同居した、誰もがハッとするほどの魅力を放っていた。そして23年後の今、彼女は依然強い輝きで私たちを惹き付けている。それはいったいどこから来るものなのだろう。
─ラストシーンのセリフを聞いて、伊奈子は「忘れない女」なのかなあと思いました。過去をそのまま現在にもってこれるというか。リンゴォの日常の中に突然ポンっと現れて、一瞬で23年の空白を埋めたりできる、そういう体質なのかなあ、と。 それは多分、あなたがまだお若いから(笑)。伊奈子だからそう、ていうんじゃなくて、昔つきあってた男性と会って、15分くらい喋っていたら、戻りますよ。30分くらい喋ったら「あそこが好きで、こういうところが大っ嫌いだったんだ」って(笑)。しかも伊奈子とリンゴォは結婚してたこともあるし、ある意味共犯者というか特別な関係だったわけだから。 再会して「久しぶり」「変わらないね」なんていう会話から始まって、部屋にあがるのかあがらないのか、お酒を飲んでしまったら一緒だと思うけれど、ああいう距離の詰め方はすごく巧みに描かれていると思います。 ─ある時期とても濃密な時間を過ごした人たちにとっては、関係性を戻すのもあっという間なんですね。室井さんと今回のスタッフ・キャストの方々との関係性もそれに近いものがあったんですか? 当時私は早稲田のシネ研にいたんですけど、長崎さんたちはもうすでに「九月の冗談クラブバンド」を撮っていて、プロの現場を経験した後だった。私たちは、現役で8ミリを撮っていて、だから長崎さんたちとはある意味、大人と子供くらいの開きはあったんじゃないかな。だから監督と内藤さん諏訪さんの関係とは少し違いますね。そういう状況があって、いま23年後に再会したといっても、当時のスタッフは一人も入っていないわけだし、今回の撮影にそういった関係性はちょっと当てはまらないかな、と思います。 ─内藤さんは今回の作品を、23年前の映画とは関係なく、まったく初めての作品、という意識でやったとおっしゃっていましたが、室井さんはいかがでしたか? 長崎さんって憧れの監督で、自主映画をやっていた頃、長崎さんと石井聰亙さんっていうのは一番成功していた人たちで、そういう人の作品に出させてもらえる、というのがすごく嬉しかった。私の正式な映画デビューは81年の『風の歌を聴け』なんだけれども、男女のことをちゃんと描いた作品って『闇打つ心臓』が初めてで。当時はラジカルな感じの作品が多かったので、細やかな感情の表現を、ちゃんとお芝居した、という経験は実はこれが初めてだったという気がする。デビュー作とは別に、気持ち的には自分の処女作、といってもいい。そういった意味で忘れられないというか、今回リメイクの話をきいてすごく嬉しかったですし、23年前の『闇打つ心臓』は常に頭の中に置いて演じたつもりです。 ─個人的に、再会した2人のラブシーンがすごく良かった、という印象をもっているのですが。 若いカップルのラブシーンと、中年カップルのラブシーンとはまた違っていなくてはいけないでしょう。特に私たちは歳くった分、「そりゃあ見たくないよ」とかいわれないようにしなきゃいけないな、と。体重はどのくらいにしとかなきゃいけないか、とか、完璧に女じゃなくなっているのはまずいな、とか思うじゃないですか。この「どのくらいかな?」という微妙な程合いが大事だった。どのくらいだとエグくて見たくなくなっちゃうか。どこを見せてどこを隠すのか。それは年の功ってことで(笑)。 ─伊奈子は、自分では意識していなくても、相手の気を引くようなことを絶妙なタイミングで言いますよね。ああいう人が近くにいたら、困らされちゃうだろうな、と。 あの2人があの晩どうなるか、というスレスレのところは、「絶対ないよね」って思われると映画の力が萎えちゃうから。その辺は私たちも暗黙の了解でやっていました。 若いカップルよりも私たちの方が「駆け引きがある」っていう風にお客さんには見えると。そういうスリリングさがあるから、経験を積んだお客さんの中には、自分に引き寄せて泣いちゃったり、っていうことがあるんだと思う。 ─伊奈子は役として“そそのかす体質”だと思うのですが、他の作品も見ていると、そういうフェロモンみたいなのって室井さんの持ち味なのかな?とも感じます。 色々なタイプの役をやらせてもらって、根性入った役も悲しい役も寂しい役もいろいろやっているから、そう思ってもらえるのかな?あんまり実生活には役に立っていないけど。実際、男性よりも女性のファンが多いのも、女性の方がそういう微妙な心理状態に敏感だからで、男の人が同じように思ってくれるかはわからない。 フェロモンと言われると…、若い頃はすっごい痴漢に襲われたもんですが、今は猫しか寄ってこないし(笑)。 ─いや、男性も確実にそれを感じ取っていると思いますね。例えば内藤さんだったり、長崎監督も。 長崎さんとの相性は、私は勝手に“いい”と思っていまして。「最期のドライブ」というテレビの仕事を一緒にやったときに、演出についてすごく微妙なことを言われているのに、すごく分かりやすい。すっと入ってくるんですね。長崎さんが自然だと思うこと、要求することが、「ああ、私もそうしたいと思っていたんだ」っていう風に。 地方ロケの時なんかは、役にハマると自分との境がなくなってきて。事務所の社長が私の電話の声を聞いて「人が違っていたようで、おかしい」と不安になって様子を見に駆けつけた、なんてこともあったし。撮影期間が長くなれば長くなるほど、自分が自分でいられる自信がない、そういう、催眠術師のような監督です。役者として夢中になれる、とう意味でちょっとスペシャルな=相性がいい監督だと思っています。内藤さんは、俳優さんの中でもちょっと違う存在。自主映画のお兄さん俳優、というより遠い親戚のお兄さん、みたいな(笑)。 ─内藤さんが、この映画は理解しようとするんじゃなくて、ただ感じてほしい、とおっしゃってました。 確かに、構造としては少し複雑な部分はあるけれど、そこが分かった上で、楽しんで欲しいですね。今まで試写で見てくれた同年代の女性や、昔からの知り合いが泣いていたり、逆にバンクーバー映画祭では笑ってたり、とか、みんな自分の中にあるなにかしらの感情を重ね合わせて見ているみたい。 若い人でも少なくとも2度恋愛経験があれば、別れた人がいるわけでしょう。あの人今なにしてるのかな、とか、自分の中のなにかを掘り起こしてみたくなるような、そういう部分を刺激する映画ではあると思います。 話しながらくるくると表情を変える彼女はとても可愛らしく、どんな言葉よりも女優・室井滋の魅力を語っていた。 次は、当時8ミリ版で撮影を担当し、現在はNCW主宰の武藤起一氏のインタビュー! #
by yamiutsu
| 2006-03-14 11:45
| インタビュー
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